足利御厨神社には、農作物のその年の豊作か凶作かを占う『御筒粥(おつつがゆ)の神事』と、豊作祈願の神事『御田植(おたうえ)祭』という珍しい行事が古くから伝わっています。
本稿では、過日3月第一日曜日に行われた『御田植』の神事について御案内いたします。
なお、『御筒粥』の神事につきましては、その概要にふれ、詳細は、来年の正月に御紹介する所存です。
それでは、本年の豊作を祈願する数百年続く『御田植』(足利市指定 民族文化財)を御覧ください。
【御厨神社:サマリー】
<御厨神社:由緒>
一 梁田神明宮(神領奉齋社)
一 足利郡梁田村大字福富(維新前、神明村)渡良瀬川現堤防附近に在り。老杉欝蒼として、神境地たる趣を備ふ。
明治25年(紀元2552)9月、郷社に列し、御厨神社と稍す。
二 沿革 此の神社は、梁田神明社にして、下野二宮と稍せられ、其の創建年代を詳にせずといえども、梁田御厨の神領として、奉齋せし
社なりし事疑なし。
宮司さんは、御厨神社に常駐していませんので、御朱印は、足利市島田町の八坂神社でいただけます。
* 島田 八坂神社:〒326-0337 足利市島田町984 電話(自宅):0284-22-4472(御朱印:要相談)
神道の入口左側に、高さ一間餘、幅一尺餘の碑あり、表に、
尼照皇大神
兩社神明宮
豊受皇大神
と刻し、西東の二面に、左(下)の文を刻す。
この二柱の大御神の御神徳の、廣く大きに御座すこと、
今更に云べくも非ず。古は國々に御厨として、神領
多かりしこと『神風抄』また『神領目録』などを見て
知るべし。則ちこの處はしも、兩書ともに、下野國に、
二宮、梁田御厨とありて、絹布・綿など献れる御領にぞ
有ける故、是を以て、常昔より此兩社を勧請して、
神明宮と稍し、今に梁田十八箇村の總鎮守と稍し奉り、
此村を神明村といふ。(後略)
足利市役所(編纂)(1928), 第三篇 第五章 関係社寺 足利市役所代表者 大給 新・永倉 牧太 足利市史 上巻の二 永倉活版所 pp.1,241-1,243
神社庁によると、
康平6年(1063)、伊勢神宮の御分霊を奉斎し、創建された。
後に、伊勢神宮の神領地となる梁田18郷の総鎮守であった。
神社名の「御厨」は、梁田18郷が、ここで生産された絹布・綿等を伊勢神宮へ献じたこと、伊勢神宮の廚(くりや:台所のこと)の役目を担った。御廚(おんくりや)に由来する。
300年を超えて伝わる「御筒粥」と「御田植」の神事は、足利指定の文化財である。
栃木県神社庁 御厨神社(みくりやじんじゃ)より
岩井山の南に、神明宮と記されています。
<御厨神社:基本情報>
正式名称(社号) | 御厨神社 |
---|---|
御祭神 | 天照皇大神 豊受皇大神 |
例 祭 | 別表 |
境内社 | 豊受神社 八坂神社 浅間神社 |
所在地 | 〒326-0331 足利市福富町2017番地 |
電話 | 0284-71-0739 小堀巧人(宮司):自宅 |
アクセス・その他 | JR足利駅:徒歩約18分 東武伊勢崎線和泉駅:徒歩約8分 東武伊勢崎線福居駅:徒歩17分 北関東自動車道 足利IC:約10分 |
駐車場 (無料) |
10台 |
御朱印 | 例祭日 |
<御厨神社:祭典>
歳旦祭(初詣) | 1月1日 |
---|---|
御筒粥祭 | 1月14日 平成30年(2018)から 14日以後最初の日曜日に実施 |
御田植祭 | 3月1日 平成30年(2018)から 毎年3月第1日曜日に実施 |
春季例祭 | 4月第3日曜日 |
八坂神社例祭 | 7月第3日曜日 |
秋季大祭 | 10月第3日曜日 |
新嘗祭 | 11月23日 |
大祓式 | 12月31日 |
<御厨神社:境内>
左手側前の石塔には、「磐長姫」、右手側前の石塔には、「食行霊」と刻まれています。
磐長姫は、木花之佐久夜毘売(このはなさくやひめ)の姉で、富士山の御神体は、この二人の姉妹を合体させたようなものであるとされていました。
そして、食行霊とは「食行身禄(じきぎょうみろく)」と名乗った伊藤伊兵衛でしょう。
いずれにしろ、浅間神社と「富士講」との密接な関係をうかがうことができます。
末社群の中央と、右隣の石祠は八坂神社です。
水のない池の中央に鎮座する境内社です。
石祠の前に「御寶前」の石碑が建てられていますが、神社名は記されていません。
水に関係するところから、弁財天でしょう。
左手側から、「龍堰之碑」「耕地整理竣工之碑」「堤防改築竣工碑」です。
【御厨神社:御筒粥と御田植の神事】
<御厨神社:御筒粥(おつつがゆ)>
毎年1月14日以降の直近の日曜日に行われる神事。(以前は1月14日に行われていました)
御筒粥の神事は、外宮で祝詞、御祓いを済ませ、外宮の前で行われます。
一斗炊きの大釜に白米・小豆各一升を入れ、小豆粥を炊きます。
このとき、釜の中に束ねた葦の筒31本(田の部12種、畑の部19種の農作物に対応する)を一緒に入れ、筒の中に入った粥の量や入り具合によって、その年の農作物の豊凶を占うものです。
釜の上に重ねられた枝は、榊によく似ていますが、榊ではなく、境内に立つ御神木とも言えそうな立派な木でした。(樹木名はわかりませんでした)
占いに使われた粥を妊婦が食べると、丈夫な子が産れるとの言い伝えもあります。
この神事の紀元などに関する文献・資料は遺されていませんが、300年以上続いていると伝えられ、農事に関わる人々の行事として大切に行われています。
かつては、「粥占」「筒試し」などど呼ばれる同様の神事が各地の農村で行われていましたが、現在まで続いている所は少なく貴重です。
(昭和31年3月13日 足利市指定民族文化財)
財団法人 足利市民文化財団・足利市教育委員会
葦筒の中の入り具合を判定
<御厨神社:御田植(おたうえ)>
秋の豊作を祈願する神事「御田植(おたうえ)」は、御厨神社外宮で行われます。
この「御田植」は、数百年続く伝統行事で、足利市の民族文化財(昭和61年3月13日)に指定されました。
以前は、3月1日(旧暦2月1日)に行われていました。
現在は、毎年3月の第1日曜日に行われています。
<御田植:準備>
外宮前の広場に、竹柱を四方に立て、紙垂を付け、注連縄を張り廻らします。
御田植の神事は、注連縄の中で、田起しから稲刈りまでの所作が行わられます。
このとき蒔かれる種籾は、1月に行われた「御筒粥」の神事で豊作とされた品種が用いられます。
見物人は、秋の豊作を話題にして話すことが良いとされています。
テーブルの上に置かれた農具類は、田から見て左側から、カマ スキ クワ ヨツゴ 籾種 マンガ ワラ 雀追い竹です。
氏子たちは、御田植の順序や方法、用意する祭具などを慎重に揃え確認します。
御田植の起源などに関する文献・資料などは遺されていませんが、「御筒粥」の神事と併せて行われてきたと考えられます。
手水において、お清めの水を総代から受ける神職と氏子の皆さんです。
<御田植:参拝>
宮司により豊受祝詞と玉串が奉奠されます。
玉串奉奠後、籾種が農具の横に移されます。
<御田植:① くろの草刈り>
草刈りから稲刈りまでの工程を氏子が演じます。
くろ ≓ 畦(あぜ)
<御田植:② 鋤(スキ)で田を耕す>
<御田植:③ 鍬(クワ)でくろを塗る>
くろ ≓ 畦(あぜ)塗り:水田の防水を目的として行う作業で、土を固めて土手を作ること。
<御田植:④ ヨツゴで苗代を作る>
ヨツゴ:歯が4本の備中鍬、四本鍬、四本万能、四本マンガとも。
<御田植:⑤ マンガで代掻きする>
前方の氏子は牛、後方の氏子は農夫を演じています。
前方の氏子が「モ~」と発声すると、会場から笑いの声も。かつては、「代掻き唄」が唄われていたようです。
マンガ:馬鍬(まぐわ・まんが)のことで、牛や馬に牽引させて田んぼの荒起しや代掻きをさせる農具。
<御田植:⑥ 恵方に籾種を蒔く>
恵方:宮司が恵方を示し、氏子がその方向に籾種を蒔きます。
<御田植:⑦ 苗取り>
生長した苗を取る作業です。
<御田植:⑧ 田植え>
稲を片手に、早乙女さんによる田植えが行われます。
かつては、「田植え唄」が唄われていたようです。
<御田植:⑨ 田の草取り>
<御田植:⑩ 雀追い>
田んぼに飛んでくる雀を追い払います。
かつては、「雀追い唄」が唄われていたようです。
<御田植:⑪ 稲刈り>
鎌を持って、稲刈りをします。
御田植が無事終了しました。
この神事のなかで使用した藁を持ち帰り、田植えのとき苗を束ねるのに用いると、稲がよく育つと言われています。
御田植の神事は、栃木県内にも少なく、農村の素朴な生き方を伝える貴重な行事とされています。
今年も、豊作でありますように心からお祈りいたします。
足利市内の神社は、
八雲神社と足利24の神社めぐり【まとめ】を御覧ください。
最後まで御覧いただき、ありがとうございました。
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